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花、発見
 「水温む春」とはよくいったもので、この時期になると、冬場の耕起した土塊に水を含ませるため、わざと迂回した水路を通ることにより、陽光に暖められた水が引き込まれます。それとともに、ラン藻やケイ藻などの植物プランクトンが太陽エネルギーを吸って増え出し、ワムシやミジンコなどの動物プランクトンがそれを餌にして急激な増殖を始めます。またそれを食べて繁殖するのが魚や水生生物たちで、この食物連鎖によって水は栄養豊かになり、植物たちの根にたっぷりと栄養を与える体制が整うことになるわけです。水温む春の日差しを浴びながら、なだらかな棚田の一番高い所にある湧水池の縁にさしかかった時、小さな白い花を付けた小柄な虫取り草が、愉快に枝を広げていました。イシモチソウです。
 
紹 介
 モウセンゴケ科に属し、草丈は20センチ程で、葉には長い腺毛があり、小さな虫を粘液球で捕らえます。雨に当たると、葉の先が倒れて地面に着き、小石がくっつくところから「石持ち」の名が付いたといわれます。初夏には2センチの白い可憐な花を咲かせ、虫に受粉を助けてもらう虫媒花でありながら、その感謝しなければならない虫を捕らえて食べてしまうという、矛盾に充ち満ちた、けったいな植物なのです。微かに、この粘液球から甘い匂いが漂っており、虫たちが誘き寄せられるともいわれます。
 虫取り草といえば、春から夏にかけて、河原でよく見られる、どぎついピンクの花を咲かせるムシトリナデシコが有名です。木津川の河川敷でもお馴染みで、江戸時代にヨーロッパから園芸種として持ち込まれ、次第に日本全土に広がりました。茎の上方節間から粘液が出て、蝿や蚊などの小さな虫がくっつくわけですが、それを溶かして栄養源とする仕組みは持ち合わせていません。さて、粘液は何のために出されるのか、まだ謎は解けていません。イシモチソウのようなモウセンゴケの仲間は、食虫盤や食虫球に消化液を携えて、虫たちのタンパク質を分解することで植物体内に栄養を取り込む、植物にしては珍しい技を持っているのです。タヌキモやミミカキグサは、水中の根に捕虫袋を持ち、水中の小さな虫たちを捕らえて、イシモチソウと同様、自分の栄養分とします。考えてみれば、光合成で自活できる能力をもっているくせに、なぜ、わざわざ、動物的な栄養補給をしなければならないのか、これまた不思議でなりません。
 
環 境
 一般にモウセンゴケの仲間は湿地で生育するのに、イシモチソウは尾根筋の粘土の多い「痩せ地」を好みます。生きるのが下手なので、きっと生育旺盛の植物たちが一番嫌う場所を、そっと自分の安堵の居場所としているらしく、山城地方では、絶滅危惧種よりももっと厳しい絶滅寸前種となってしまいました。痩せ地で生きるからこそ、虫にタンパク源を求める機能を身につけたのかも知れません。
 
今後のつきあい
 「二もとの むめに遅速を 愛すかな」蕪村の句でありますが、早く咲いた梅に優美さを求め、後から咲いてくる花には感動が失せて求めない、自然を愛でるヒトの無情を遠回しに詠んだのだと思います。
 自然の動きが大きいものばかりに人々は注目し、その対策に追われるのが世の常でありますが、営利主義に走り、さもしい格差意識を持ちたがり、現在の金融不況を自ら招き、弱者を捨て去らなければ生きていけない社会構造に、このイシモチソウが、身をもって警鐘を鳴らし続けてくれているのに違いありません。


 

■バックナンバー
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