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 明応二年(一四九三)九月四日。
 伊勢貞宗は都より二千の精鋭を率い、宇治を目指し京より出立した。都の南端一口を一息に渡るや、馬たちの闊歩する音のみ、皆黙々と進む。一方、北に向かい山城一揆勢は宇治の河原にて陣立てを終えていた。
 先鋒の巨漢六女郎花が二丁斧を縦横無尽に振り突き進む。さしもの官軍も恐怖し、逃げまどう。形成は山城勢の優位。と、突然山城勢の動きが止まった。赤白の狼煙が南より伺える。(援軍頼む)の合図だ。だが戦の最中、人を割く余裕はない。けれど狼煙は次々に上がる。
 目には見えぬが、南部戦線の危機を意味する。これが山城勢の戦意をくじき徐々に劣勢へと変わる導火線となった。
 伊勢軍に浮き足立った山城勢が次々と打ち負かされ、勢いはついに入れ替わった。とうとう平等院をも放棄する。最後は徐々に一人また一人と戦場を離脱していった。
*  *  *

 一方、こちらも総崩れとなった南部戦線の中、「木津川西の稲屋妻城にて再起を図ろう。北の援軍が来るまで持ちこたえればまだまだ勝機はある」と神部が叫ぶ。
「そういたしましょう・・・」神部に皆従った。
 稲屋妻は木津川に面した自然の要塞である。南都勢は足踏みしている。
 翌夕刻、南都勢の陣地が嫌に騒がしい様子。敵の兵が増えた気もする。暫くして、「我は伊勢貞宗。恐れ多くも足利将軍家より山城の守護を仰せつかったもの。我らに逆らうものは皆逆賊ぞ。天に変わって成敗してくれる」という声が轟く。それを手始めにホラ貝が次々と鳴り響く。敵は城下に集結し始めた。
 真田が傷ついた躯に鞭打ち一軍とともに、敵の本陣めがけ雄叫びあげて突っ込んでいく。が、喚声はたちまちにうち消された。
「これまでか。皆お覚悟を。われら国人たちが最期の一戦をいたします間に、百姓や馬借衆の皆様は裏道よりお落ちなされ」
「いいえ、私どもも供にまいります。われらはいつまでも仲間じゃないですか」
 赤々と燃える稲屋妻城・・・
 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・城内から読経がかすかに漏れてきた。
*  *  *
 日本の有史の中、最初で最後の自治国が出現し、消えて以来、五百余年の歳月が経つ。
 そんな今日、山城に一揆の精神は果たして受け継がれてきたのであろうか。
「平和国家日本」と人々はいう。だが、若者達は「夢を失った」と嘆く。国策により食料の自給自足が放棄されて久しい。今後何より危惧するのは食糧難の再来である。日本を滅ぼすのに兵器などはいらない。食料の道を閉ざすだけでよい。
 だが、ある若者にわたしは出逢った。彼は、荒れ果てた大地が山城に多く点在し、松茸のとれなくなった荒山が『山城』を囲むのを嘆いていた。
「人間が人間らしく生きられるようになった原点は『農業革命』だよ。工業化を進めた『産業革命』じゃなかったんだ」とわたしが言うと、
「同感です。今なら農業を立て直すことは可能なんです。山城ブランドを立ち上げ、精華イチゴ、城陽イチジク、青谷梅、多賀蜜柑、そして宇治茶。これらを『ソフト山城』として連動させ売り出す。路線に乗れば府や国の政策に逆行しても米作りの復活。安全を売りにしてですね」彼は山城地域の農業に励む青年である。
 わたしはウインクした。
 ※この物語はフィクションです。

 
■著者プロフィール■
地上 亮(じがみ あきら)
昭和27年生まれ
 綴喜郡井手町在住

 京都府立鳥羽高等学校教諭。著書に「日本水滸伝」があるほか、「椿説弓張月」「日本水滸伝・」「アライブ」などの作品をホームページで発表している。

■バックナンバー
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