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▲港の跡地とされる上津遺跡(木津町)

 
 山城に存在した幕府側の拠点は次々に一蹴され、全て駆逐するのに時は要しなかった。
 八年の平和な日々が山城に流れた。空には小鳥が舞い、のどやかな気候が人々の心を温かくもした。人は額に汗し、農業に勤しむ。傍ら新たな生産活動がおこり、精華では座が繁栄した。さらには万物行き来し、港町木津の活気は著しい。馬借や車借、船頭達が集まってきたため、百件の市が並び、そこここに笑い顔が満ちていた。
「これが、自由の国、山城じゃ」
「そうよ、そうよ」

 
 山城を攻略する総大将として、日野富子は思案の末、伊勢貞宗を抜擢した。この男、たいした実績はないが幕府内にては最も沈着冷静な性格、しかも知恵者だと富子は感じていた。
だが、伊勢貞宗は勅命を拝しても京よりしばらくは動かなかった。
 ところが、彼は密命を奈良の古市に発していた。受けた古市を主力とする南都の勢は、しゅくしゅくと奈良街道を一路北に動き出す。と、奈良街道を睨んでいた井出砦の忍びがいち早く異変をよみ、直ぐさま木津の余市という男の元へ走った。余市は木津を仕切る馬借頭である。
「よし、敵襲来の狼煙をあげよ」と、高らかに余市は叫ぶ。
 木津の東、内田山に備え付けられていた狼煙台より一斉に赤い煙が立ち上った。木津の材木人夫達がまず気づいた。手持ちの道具を武器に変え木津神社にいち早く集結する。次々と戦仕度をした民衆も神社に駆けつける。石榴からは騎馬たちが援軍に動く。みるみる群衆の輪で境内は溢れ、立錐の余地もない。その間わずか一時。整然と行動できた。まさに、圧巻である。
かねてからの約定通り、剣豪尾形彦国を筆頭に迎え撃つは市坂の下りである。真田往等もいる。市坂は辺り全てが竹林で昼間でも薄暗い。中央には竹槍構えた木津の衆が余市を中心に陣取り逆茂木を立てる。左藪中には真田往等が椿井衆を引き連れ伏せて気配を消していた。右の林には真田往等に勝とも劣らぬ尾形彦国が菅井の荘や相楽の若者を率いこれも音を殺してじっと敵を待つ。後詰めは石榴衆である。
一方、南都一の剛勇斉藤彦次郎は先陣を賜り黒一色の鎧に身を固め、得意の長刀を小脇に抱え悠々と歩み続け、あとには南都の勢力が規則正しく続く。
「ひといきに木津まで攻め下れ」
 南都軍が奈良坂を越え、いよいよ細道を抜け市坂にさしかかる頃、
「ややっ、正面に何かがおりまする。ご油断召されるな」と斥候が本陣に急ぎ連絡するも、「なんのあれしき」剛勇斉藤彦次郎は余市の本陣目指し突進する。が、突如バラバラと、動きが鈍った。
「我は真田なり、刃向かうものは容赦せぬ」と、敵の側面より整然と襲いかかる。さらには、逆横からも尾形軍が間髪入れず無造作につぶしにかかる。斉藤彦次郎は秘術をつくし力の限り戦った。だが、両脇よりの急襲は予想だにしなかったから、味方が崩れるのに小半時も要しなかった。南都の軍勢は後方顧みぬ、ただの逃げまどう羊。一目散に奈良坂に殺到したときである。後詰めのはずの石榴の騎馬衆が待ちかまえていた。
「うおー」
 さらなる恐怖。命からがら散りじりばらばら南都勢は死にものぐるいで逃げに逃げまどう。
しばらくは南都の軍勢、動く気配が全く消えた。
 ※この物語はフィクションです。

 
■著者プロフィール■
地上 亮(じがみ あきら)
昭和27年生まれ
 綴喜郡井手町在住

 京都府立鳥羽高等学校教諭。著書に「日本水滸伝」があるほか、「椿説弓張月」「日本水滸伝・」「アライブ」などの作品をホームページで発表している。

■バックナンバー
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