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▲南山城大水害(1953年)を受ける南山城村
(京都府立山城郷土資料館所蔵)

 
 真夏だというのに、いやに涼しい。長禄二(1458)年、人々の顔は冴えなかった。田植えの時期だというのに一滴の雨も降らない・・・。
 すると、葉月には豪雨を越え爆雨とよぶに相応しい雨・・・。山城から津の国の西部方面にかけ、落雷を伴う豪雨が続く。8月15日午前1時から午前5時にかけ428ミリの雨量に達す。すなわち、半時(1時間)あたり、100ミリを超す記録的な豪雨が襲う。227万立方ミリの土砂が一気に流れ出る。
 風化した花崗岩の上に食糧増産に追い込まれた人々が命がけで開墾に全力をあげたこと、薪を確保するため、広葉樹が多く切り倒されてきたことがこの不幸を招いた。
* *
 夏はやっと越えた。しかし、不気味な秋が来る。
 熱帯低気圧は北太平洋から発達。やがて、早朝には四国を暴風雨圏に巻き込み、午前9時、室戸岬に上陸した。台風は北北東に進路を取り、山城目指してぐんぐん迫ってきたのである。930ヘクトパスカルのこの渦は実に瞬間最大風速84・5メートルを記録する。昼には台風の目(中心)が田辺に到達。一瞬静まりかえったかと思うとまたしてもふき戻しの風が襲ってきた。
 その間、一時(2時間)。やせこけた民家の倒壊ばかりか、立派な寺社の瓦まで紙切れのごとく吹き飛ばされていった。
* * *

▲現在の涌出宮(山城町)

 台風一過の大地にはまばゆい太陽が何事もなかったかのように照りつけ始めた。 収穫前だというのに、天災は容赦なかった。
 狛の名主、多丙が甲高い声で、「蔵を開けよ。ありったけの米を運び出せ。涌出宮には大釜があろう。それで、炊き出しを始めるぞ」
「よっしゃ」
「おれの自然薯も鍋に全部ほうりこんでくれ」
「木津川に打ち上げられていた魚じゃが、すぐにさばくから」
 大釜からの匂いは空腹の人々を蝗のように呼び集めた。
 天災を真正面から被った人々にとって、寄り添う温かさが嬉しかった。椿井、平尾、綺田、井出の国人たちも威張ることのない仲間だった。
 誰かが、勝手な節を付けて歌い出す。
 『極楽浄土をこの世にできる。われらが目指すは、人間浄土。ナムアミダブツ、ナンマイダ・・・』と、手を振り、飛びはね、踊りの輪は大きく大きく広がっていく。
 多丙もその輪に飛び込んで行った。陽気な多丙は三番星なのかもしれない。

 ※この物語はフィクションです。

 《参考資料》
   「南山城大水害」1953年
   「第二室戸台風」1961年


 
■著者プロフィール■
地上 亮(じがみ あきら)
昭和27年生まれ
 綴喜郡井手町在住

 京都府立鳥羽高等学校教諭。著書に「日本水滸伝」があるほか、「椿説弓張月」「日本水滸伝・」「アライブ」などの作品をホームページで発表している。

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