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▲明治26年落成の泉橋と木津川
(明治42年「紀年相楽郡写真帳」より)

 
 古典文学より
 川と橋、私達はそこに何かしら情緒的なものを感じるものです。南山城では、木津川の流れと、かつてそこに架かっていた泉橋辺りの風景も、1つの文学的空間であったと言えましょう。
 泉橋は、天平13年(741)僧行基(ぎょうき)によって架けられたと言われます。(『行基年譜』)この辺りは古くから文学作品に登場し、早く日本最古の歌集『万葉集』に、平城京から越中国守として赴任する大伴家持(おおとものやかもち)が、泉川で弟との別れを惜しんだ情景が詠まれています。
 平安時代には、『蜻蛉(かげろう)日記』の作者道綱の母が、初瀬詣での際に、上狛の泉橋寺に宿泊し、翌朝泉川を渡った時の様子を記しました。
 中世、『平家物語』の名場面「重衡(しげひら)斬られ」の舞台は木津の河原ですし、『新古今集』の代表歌人、後鳥羽上皇や藤原定家といった人々も、泉川を木津で渡河しています。2人には泉川を詠んだ歌が数首ありますが、旅の途上での木津川の風景は、きっと彼等の詩心を刺激したことでしょう。
しかし、泉橋は度々流されたのでしょうか、古典の文学作品には、橋そのものはごく稀にしか登場しないようです。

 与謝野晶子木津川の歌
明治に入って、与謝野晶子が泉橋に立って歌を詠んでいます。晶子の第2歌集『小扇』(明治37年)に、4首の歌が載せられています。

@船の子は 浪華へ十里
  秋の水 木津の河橋
  ゆふべをおくる
A 夕橋に 人はひとりの
  秋のいろ 木津川ながく
  大和を 行くよ
B おつる日や いづこ快楽(けらく)の
  夢の里 わが橋はなれ
  寒く行く船
C伊賀いでし 水のすゑ問ふ
  旅ならず 芸術(たくみ)に泣かん
  明日の東大寺

 秋の夕暮れ、晶子は泉橋に立って、木津川の流れを眺めながら、物思いに耽(ふけ)っています。そうして川面には、大阪方面へと向かう舟が浮かんでいます。初期の晶子らしい浪漫的な調べの歌です。
Aの歌の「大和」は晶子の誤認、木津川は、勿論(もちろん)「山城」を流れます。Cの歌。晶子は、奈良に行く途中に、木津に立ち寄ったのでした。歌から晶子が木津に宿泊した事が判りますが、木津のどの旅館に泊まったのでしょうか。
かつて晶子の詠んだ祇園の歌は、人々に「祇園」に対する憧れを抱かせましたが、泉橋での歌も、当時の泉橋と木津川に漂う情緒を、見事に永遠化したものと言えましょう。


▲現在の泉大橋と木津川
  明治大正期の新聞より
 晶子の歌を裏付けるごとく、明治大正期の新聞記事を見ると、木津川と泉橋の様々な風情が紹介されています。秋の月夜の金波銀波漂う木津川での夜釣り・1本松辺りの蛍狩りと不如帰(ほととぎす)の鳴き声・納涼のための出店と遊船があったという記事など。泉橋辺りの木津川の地は、「奈良辺よりも続々」来遊する人があったともあり、人々の「1日の清遊を試みる」べき地であったとも記されています。

新聞記事は『奈良新聞』
『日の出新聞』(現『京都新聞』)のものです。

■著者プロフィール■
小西 亘(こにし わたる)
 
1958年、南山城村に生まれる。82年より京都府立高校に勤務。現在府立南陽高校国語科教諭。『注釈青谷絶賞』『「月瀬記勝」梅蹊遊記訳注』執筆。

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