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▲三室戸の竹林(宇治市莵道)

 
 子どものころ、誰もが親しんだおとぎ話に『竹取物語』がある。
 かぐや姫を主人公とするこの物語は、紫式部が『源氏物語』の「絵合(えあわせ)」の巻に「物語の出(い)で来(き)はじめの親」として記しているように、平安時代中ごろにはすでに『竹取物語』を物語りの始祖と認めていたようである。
 物語の粗筋は、ある日のこと、竹取の翁(おきな)が竹を取っていると、根元の光る竹が1本あった。不思議に思い、竹を切って中を見ると、3寸(約10センチ)ほどのかわいい女の子がいた。家につれて帰り、大切に育てたところ、3か月ほどで輝くばかりの美しい女性になった。そこで名前を「なよ竹のかぐや姫」とつけた。
 姫の美しさを聞きつけた5人の貴公子が求婚するが、かぐや姫はそれぞれに「龍(たつ)の頸(くび)にある5色の玉」「仏(ほとけ)の御石(みいし)の鉢」などを持ってくることを結婚の条件にした。しかし、結局、5人とも失敗し、最後には帝(みかど)の求婚をも退け、十五夜の晩、かぐや姫は迎えに来た天人とともに、月の世界へと帰っていった。
 よく知られているのはここまでであるが、話にはもう少し続きがある。
 翁は、かぐや姫が形見に残した不死の薬を帝に献上するが、帝はもはや不用として、天に一番近い駿河の国の高い山の上で、薬を燃やすように命じる。そこで薬を燃やしたので、その山を不死(富士)の山と呼ぶようになり、その煙は今も頂上に立ち上がってるといい伝えられている。
 この物語の成立年代については諸説あるが、現在のかたちのものは9世紀後半から10世紀の中ごろにかけての成立と考えられている。
 それでは『竹取物語』の舞台、つまり、竹取の翁やかぐや姫はいったいどこに住んでいたのであろうか。
 かぐや姫伝説は、全国各地に広く分布し、奈良県北葛城郡広陵町や宇陀郡曽爾(そに)村をはじめ、府内では竹の産地として知られる長岡京市・向日市・京都市西京区大原野などが『竹取物語』ゆかりの地として語られることが多い。
 今ひとつは、宇治の三室付近にもかぐや姫の伝承が残されている。
 物語には、翁が竹の中から見つけた女の子に名前を付けてもらうくだりに、
  この子いと大いになりぬれば、名を、御室戸斎部(みむろどいむべ)の秋田をよびて、つけさす。秋田、なよ竹のかぐや姫と、つけつ。
とある。

 かぐや姫の名付親は、御室戸に住む神に仕える「秋田」という人物であるとしている。『宇治市史』には、御室(みむろ・三室)の里は神在ますところであり、また、宇治川東部いったいの村々は古くから竹の産地として知られ、このあたりには幾人もの「竹取の翁」が住んでいたのは、言うまでもないことである、として「三室戸」が『竹取物語』の舞台と推測している。また、国際日本文化研究センター顧問で、哲学者の梅原猛さんも著書『京都発見・地霊鎮魂』の中で、地方から伝えられた民間伝承などに見られる「かぐや姫」の話が、この地で「揺籠(ゆりかご)」に揺られて、成長した話である、とされているのもうなずける。
「かぐや姫のお守り」(三室戸寺)
 物語で、かぐや姫にからかわれる貴族たちは、天武・持統・文武朝に実在した人物である。その時代は奈良時代前期にあたり、大和(やまと(奈良県))が舞台となっているが、作者は、平安京かその付近に住み、物語の構造をここ宇治の地で練ったのかもしれない。
 『竹取物語』の作者は不詳であるが、漢籍や仏書に通じた人物で、用語・文体から見て男性の手になるものと思われる。
 この物語は、「人間的な愛情の美しさ」「永遠なるものへの志向」を提示しており、皇族や貴族の婦女子のために書かれた物語であったのであろう。

 
■著者プロフィール■
西脇一修(にしわき かずのぶ)
(昭和24年9月15日生)
 現在 久御山町長寿健康課長、京都府文化財保護指導委員
主な著書
「京都府の地名、日本歴史地名大系26」(平凡社)
「久御山町史 全3巻」(久御山町)
「目で見る南山城の100年」(郷土出版社)
「京都・山城寺院神社大辞典(平凡社)」ほか

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