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▲恋志谷神社

 
 若い娘が結婚せず、子供を生むのは30代。40過ぎたら「熟年離婚」。働き盛りの50代男性は自ら死を急ぐ。
 1999年、当時の厚生省がまとめた1998年の人口動態統計(概数)について、新聞各紙は総じてこのように報じた。
 統計によれば、「晩婚・晩産化」の傾向が一段と進行したことが分かる。適齢期意識は確実に薄れ、結婚にメリットを見出されない「積極的シングル」が増加しているといえそうである。
 統計の結果を見るまでもなく、いつの世も愛と憎しみは紙一重である。それゆえ、心の迷いからの救いを神や仏にすがり、また、自らの運命や未来を占ったりした。その最たるものが、縁結びや縁切りに関する祈願であろう。
 現在にあっては、縁切りの神がその所業(しょぎょう)の深さから、逆に縁を結んでくれる神に転化する場合もある。祀る側と祀られる側の関係をはじめ、信仰や祈りは、必ずしも不変ではないことを物語っている。
 さて、長い歴史を持つ京都には、縁結びの神社が多くある。例えば、京都洛北の貴船結社(きぶねゆいのやしろ)・左京区の須賀(すが)神社・上京区の幸神社(さいのかみのやしろ)などは縁結びの神社として名高い。中でも、東山区清水の地主(じしゅ)神社・嵯峨の野宮(ののみや)神社などは、良縁を求める若い女性やカップルで賑わい、今や観光の名所と化している。

 ところで、南山城にも縁結びの神を祀る神社があるのをご存知だろうか。
 京都府唯一の村として知られる南山城村の南大河原に恋志谷(こいしだに)神社という大変ゆかしい社名の神社がある。地元の人は、親しみを込めて「恋志谷さん」と呼んでいる。
 この神社は、大正9年(1920)に編さんされた『京都府相楽郡誌』に南大河原村の天満宮社の末社として、恋志谷姫大神の名がみえ、齋(いつき)神社と呼ばれていたらしい。当社が縁結びの神とされる由縁は、南朝の哀史ともいうべき次のような悲恋伝説が伝えられている。
 話は鎌倉時代の末期にさかのぼる。元弘元年(1331)、鎌倉幕府を倒そうとする計画が洩れ、後醍醐天皇は京都を脱出して笠置山に逃れた。天皇に想いをよせていた姫(寵姫(ちょうき))は伊勢で病気の療養中であったが、急ぎ笠置の行在所(あんざいしょ)に駆けつけた。
 しかし、姫が笠置に着いた時には、すでに天皇は追っ手から逃れるため笠置を発った後であった。
 姫は天皇に会えなかった悲しみと憤りから病が重くなり、自害してしまった。姫はその時、天皇のみを案じて恋焦がれ、さらには病に苦しむような辛いことは自分一人で十分である。苦しむ人々の守り神になろうと言い残された。
 このことを哀れんだ人々が祠を建てて、祀ったのが当社であるという。

▲恋路橋(潜没橋)
  もともとは、病難を除く神であったが、今では恋を叶えてくれる神として信仰を集めている。
 恋志谷神社へは木津川にかかる通称「潜没橋(せんぼつきょう)」を渡って行く。橋は、増水すると流れに隠れるので、「沈み橋」あるいは「石橋」とも呼ばれている。長さは95メートル、幅3,6メートルの花こう岩の橋である。
 橋がかけられたのは、昭和20年3月。それまでは、渡し船が北・南大河原の集落を結んでいた。
 またこの橋は、南岸に鎮座する恋志谷神社の参道にもなっている。そこで平成8年に村のイメージアップを図るため橋の愛称を公募し、ロマンの香り漂う「恋路橋」と名付けられた。
 恋志谷神社の春と秋の大祭(4月2日・9月2日)には、恋のかけ橋といえるこの恋路橋を渡って、恋愛成就を願う多くの人達が訪れる。
 「縁結び」。この女と男を結ぶ「縁(えにし)の糸」ともいうべき赤い糸の信仰は、まさに時代を映す鏡といえよう。

 
■著者プロフィール■
西脇一修(にしわき かずのぶ)
(昭和24年9月15日生)
 現在 久御山町長寿健康課長、京都府文化財保護指導委員
主な著書
「京都府の地名、日本歴史地名大系26」(平凡社)
「久御山町史 全3巻」(久御山町)
「目で見る南山城の100年」(郷土出版社)
「京都・山城寺院神社大辞典(平凡社)」ほか

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