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松苗で田植えをする御田の儀(涌出宮)
写真提供 山城町
 
  【神の宿る森】
   山城町平尾の涌出宮(わきでのみや)(和伎座天乃夫岐売神社(わきにいますあめのふきめの))は、古くから「腋杜(わきのもり)」と言われてきた森のなかにある。イチイガシの森は、代々の氏子が「お宮さんの木は、神様の木」として、受け継いできた。そして、京と南都を結んでいる街道の目じるしでもあった。

  精華町の木津川畔にある祝園神社も「ハハソの森」と呼ばれるナラやクヌギなどの落葉広葉樹の森に覆われてきた。木津川を上下する人たちの目じるしであり、紅葉の名所であった。新古今集に藤原定家の歌がある。

  『時わかぬ 波さへ色に 泉川
  柞(ははそ)の森に あらし吹くらし』

  神霊の宿る神奈備、この二つの神社には、古代の歴史伝説も豊かだが、ここには、新しい年の豊作を願って、神を迎え、その前祝いをするために、氏子が心身を清め、燈火を消し、音を立てないで斎籠る神事が伝えられてきた。
  【祝園神社のいごもり祭り】
   祝園神社の祭りは、1月の申(さる)の日から戌(いぬ)の日の3日間、神主と氏子代表、各地区の役員によって行われている。

 1日目は、神社の森の中にある「風呂井」へ神主が赴いて、一子相伝といわれる秘密の祝詞を奏し、玉ぐしを持ち帰って神殿に納める。

 2日目には、12ヵ月を意味する12本の割竹に豆木の束を包んだ大松明を先頭に、神主らの列が、神社から村境いの「幸の森」へ向かう。神主と松明持ちが、白砂で作られた一坪ほどの田の恵方に砂が盛られている上に榊を立てて祝詞をあげ、田植えのしぐさをし、五穀の種をまくという御田(おんだ)の儀式がある。この儀式は誰も見ることはできないし、近づくこともできない。

 1日目と2日目は夜行われるが、3日目の綱曳(つるひき)の儀は、午後、子どもや大人たち大勢の氏子が地区に分かれて、特異な形の綱を引き合って豊凶を占う。
  【中世の祭礼を残す出宮】
   出宮の祭りは今、2月15日から3日間、与力座、古川座、尾崎座、歩射座(びしゃざ)という4つの宮座によって進められている。近世では1月の2の午(うま)の日から始められた。今の2月中旬にあたる。宮座というのは、中世の惣村から生まれた氏神を祀る集団である。

  60日前と14日の深夜には、神々を祭りに招待する「もりまわし」が行われる。

 1日目の夜は、拝殿で宮座の饗応(きょうおう)、つまり、もてなしの儀が進められ、やがて大松明が点火され、境内で燃え盛る。

 2日目には、2つの宮座から、五穀豊穣や村内安全を祈る大きな勧請(かんじょう)縄が奉納される。

 3日目は、朝から祭りの世話をする与力座によって饗応の膳が整えられ、古川座へ7度半の呼び使いが出る。午後は各座衆の饗応の儀に続いて、拝殿の床を田に見立てて、御田の儀式が行われる。ボウヨ(男児の役)が田舟を引き、神主が籾をまき、ソノイチ(みこ)、トモ(女児の役)、ボウヨが松苗で田植えをまねる。

 3日間とも夜には、神主が榊の枝でつくった農耕具のミニチュアをそれぞれの野塚に納めに行く。
 17日の夕方、勧請縄を新しいものに取り替え、深夜、御供(ごく)の飯を四ッ塚に供える。明け方に御供がなくなっていれば、あけの太鼓が在所をまわってたたかれる。居籠が終わる知らせである。
  【神とともに新年を迎える人びと】
 
燃えあがる大松明(祝園神社)
写真提供 精華町
 居籠祭りには、年頭に豊作を予祝したり、豊凶を占ったりする儀式などが多く組みこまれている。こうした1つ1つの儀式は、南山城のほかの神社でも行われている例がある。家々でも神を迎える準備や行事を多く見ることができる。人びとは、長い歴史の時間を、ずっと、神と対面して新しい年を迎えてきたのである。
府立山城郷土資料館編「祈りとくらし」「宮座とまつり」、広報せいか、山城町広報などを参考にしました。

涌出宮のいごもり祭は、平成19年から2月の第3土・日曜に日程変更されます。


 
■著者プロフィール■

昭和7年生まれ
 38年間、山城地域の小・中学校に勤め、現在、城南郷土史研究会 代表。
山背古道探検隊長。
 「木津町史」、「山城町史」などの町村史と「京都府の地名」(平凡社)、「山城国一揆」(東大出版会)、「けいはんな風土記」(同朋社)などの編集や執筆に加わってきた。

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